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相互牽制って聞こえはいいけどさ

相互牽制って聞こえはいいけどさ

こんなことはなくなるに越したことはないのですが、人は誰もが間違えるということを持ち合わせています。セキュリティが突破されたというものであれば、ハッカーと防御する術の日進月歩、はたまたイタチごっこな側面もありますので人の手で防御するのは困難かもしれません。一方でシステムが誤作動した、とかメールに添付してはいけないものを送信したことで発生するミスはヒューマンエラーなので、それを防ぐには最終的には人が間違えをなくすことしかありません。その方法は例えばしっかりマニュアルを作ってそれに基づいて作業をするなどがありますが、対外的に発せられることとして「相互牽制の実施」や「牽制機能の強化」という言葉であっさりと片付けている印象があります。記者会見でいう「誠に遺憾なことで…」に近いような。相互牽制という言葉を使えば、それこそ「あてがえ」ば善後策をたてましたということを代弁させているような気になってしまいそうです。相互牽制って、そんなにすごいことなんでしょうか?

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photo credit: Daniel Kulinski via photopin cc

相互牽制=後から見る人がいるという気のゆるみ

相互牽制があろうがなかろうが、なにより大切なことは「自分は確実にこの作業を行った」といえる自信があるのか。何事においても人が携わったことでその成果が表に出ることと考えると、まず第一段階で携わった人に確実さが求められます。目的はミスをなくすことです。「後からチェックする人がいるからさ」では、そもそもミスを減らすことができません。

自分のやったことに牽制できるか

仕事はベルトコンベアで流れてくるものではないし、自分の手元にきたものを寸分違わずネジを1ヶ所締めるだけといった単要素ではないですよね。仮にそうだとしても、その締め具合を自分で確認することができる人とそうではない人が実際にはいます。まずは自分の作業を検証できる人になってもらうことがミスを減らす最大の方法ではないでしょうか。そもそも、自分で自分の作業を省みていないものを他の人に確認してもらうなんて、どこかおかしい感じがしませんか?

この仕組みが本当に最善なんだろうか

はじめに記したように、人は誰もが間違えるという蓋然性を持ち合わせています。これを根本的に排除することはできません。間違いをして初めて仕組みに欠陥があることに気がつくことも、認めたくはなくても事実あります。全てのことにこれでいいだろうかと考える時間があることが最善かもしれませんが、そこまでの余裕をくれといっても出てくるものでもありません。であるならば間違いが発生していないということは結果としてそうかもしれないけれど、仕組みのどこかで勘違いがあったら間違えていたかもしれません。そういう気持ちをもっていることがミスを未然に防ぐ手だてになるはずです。

間違いやミスは悲しいかな起ってしまったことに対しては迅速な対処と謝罪が必要です。そして次に発生させないためにはどうするのか。それをチェックする人を増やしますで片付けてしまっては、携わった人に改善がありません。それでは間違いが起るかもという蓋然性を他人に押し付けているだけです。

城山三郎が書いた小説の一部を思い出しました。旧国鉄の総裁だった石田禮助は国鉄の合理化策として出された運転士二人乗務制の廃止に反対する野党に対し、次のように言ったようにいっています。(城山三郎著 粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 (文春文庫) 201ページより引用)。

「二つの目より四つの目で見ていた方がいいのではないか」

と質問され、石田は「六つならもっといいのか」とやり返し、

「四つになったり、六つになったら、みんな他力本願で、ろくなことはありゃせん。四つも必要ない、二つでたくさんなんだ。目の数じゃない、目のうしろについている精神だ。それが活躍している以上は目はひとつでいいんだが、せっかく神様が二つつけてくれたんだから、二つにしたんだ」

精神といわれて、それって気合いと根性ってこと?となってしまいそうだけれど、おそらく石田禮助は一人がしっかりすることが大事だといいたかったのだと思います。人数の問題で事故は防げないと。多数の人の命を預かる電車の運転士も、封筒に書類を入れることも命が関わっているということにその責任の差はあるかもしれませんが、それに携わる人がどれだけしっかりと考えてその作業を行っているかが間違いやミスをなくす根本ではないかな。

その作業がどういうものなのかを考えることは、とりあえず間違いが起きていなければ問題ない、そういうことで作業をとめるなという考え方にどこかまどろっこしさを感じていた矢先に、石田禮助の言葉を思い出したのでした。

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