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やっぱり「カッコイイとはこういうこと」だね 【読書メモ】ジブリの教科書7 紅の豚 文春ジブリ文庫

やっぱり「カッコイイとはこういうこと」だね 【読書メモ】ジブリの教科書7 紅の豚 文春ジブリ文庫

ジブリの映画で何が好きかと問われれば、それは紅の豚です。ジブリのアニメを映画館で観たのは確かこの紅の豚が最後だったような気がするからかもしれません。しかし、最近のは観ていない映画もありますが、概ねジブリの映画はテレビで観ています。それでもなお、ずっと紅の豚がやはり一番好きです。

子ども心に、大人がかっこよくみえた

紅の豚はいろんな意味で、少年少女が主人公ではありません。主人公の豚(ポルコ)は、おじさん(豚なので、実際はわからないのかも)。ジーナも、3人のご主人と死別している大人。強いていえば、フィオが少女なのかもしれませんが、れっきとした航空機設計者ですので大人だと思います。

誰かに何かを言われてとか、何かを守るためにといった、言葉は悪いですが青臭い正義感がないところが、子どもながらに落ち着いているなという印象がありました。

今、紅の豚を初めてみたとしたら、地味な映画だなと思うかもしれませんが、地味ということはなかなか難しいことです。それもまた、かっこいい。

女性にこびないポルコ

カーチスとの戦いが終わってポルコがフィオをジーナの飛行艇に乗せたときに、ジーナが言ったあのセリフ。

ずるいひと いつもこうするのね

ずるい男って、なんだかかっこいいじゃないですか。

一方で、女性にやたらと擦り寄るカーチスのみっともないことといったら…。

紅の豚が作られたときの時代背景

紅の豚が製作に入ったのは1991年7月のことです(32ページ)。イラクがクエートに侵攻し、それに対して多国籍軍がイラクを空爆したことで始まった湾岸戦争と同じ年です。プロデューサーの鈴木敏夫氏は次のように回想しています。

コンテに入ってしばらくして、宮さんといろんなことを話し合う機会を持ったんです。その時にわかったのは彼がつくりたいものが当初言っていた能天気な航空活劇とは違うものになってきているということだったんです。いちばん大きかったのが、その年のはじめに勃発した湾岸戦争の影響です。そんな状況下でこんな能天気な作品を作っていいのだろうかという疑問ですね(29ページ)

宮さんが(略)60分になるかもしれないと言い出したからなんです。それが8月の19日ごろだったと思います。なんで覚えているかというと、旧ソビエトでクーデターがあった日だからなんです。世界がますます激動し始めたころです。宮さんのコンテが進まないことと世界の情勢の変化には関係があると、何とはなしに思っていました(30ページ)

ボクは湾岸戦争の頃はまだ中学生で、記憶に残っている中で初めて目にしたのがこの戦争でした。同時にPKOの法律ができて自衛隊がそのような地域へ行くことになってしまった。はだしのゲンでしか知らなかった戦争というものに、自分たちも巻き込まれてしまうようになってしまうのかと思ったことを覚えています。

今思い返せばそんなことを考えていたことを思い出せますが、では実際に自分が大人になって起こった2001年の同時多発テロや、今まさに起こっているイスラエルとイスラム国のことをニュースでみて、同じようなことを考えるかといわれるとそうではありません。2014年は様々なことで戦争の世界と日本との関わり方に変化が起きた年ですが、どこか他人事のように聞こえるのは、それだけ自分が鈍くなったことなのかもしれません。

紅の豚の時代背景

紅の豚の物語としての時代背景は1920年代の第一次世界大戦と第二次世界対戦の狭間のイタリアです。映画で飛行艇乗りが生き生きと活躍しているこの時期、イタリアはファシズムの色が濃くなり、第二次世界対戦へと繋がっていく時期です。決して能天気な時代ではなかった。

本文中、宮崎駿自身も次のように言っています。

(略)大バカな第二次世界大戦があって、そこでフィオはどうしたんだろう。イタリアの飛行機の町工場が、どういうふうにイタリアの戦争に巻き込まれていったのか。ああいうふうに生きているジーナみたいな女が、ホテル・アドリアーノを抱えたままユーゴスラビアと戦争になったときに、彼女はどこに生きたんだろう。そういうことが気になるんです。

地球上で、全く戦争がなかったときってあるのかな?と考えてしまうボクはそれこそ能天気なのかもしれませんが、少なくとも今もどこかで戦争が起きていてひょっとしたら今の我々のおかれた状況も、紅の豚の時代背景と同じで戦争の狭間で今は戦争が日本では起きていないだけと考えると、今ある生活がいかに楽で能天気なのかと考えさせられます。

映画を楽しみ、その制作現場を垣間見れる1冊

暗い話になってしまいましたが、紅の豚であるポルコははっきりと戦争をやっているんじゃないんだと言っています。賞金稼ぎで飛んでいる豚の映画ですから楽しんでみればいいんです。かっこよくていいんです。

本書では製作に関わったアニメーターの方々の対談、宮崎駿とジーナ役で主題歌を歌った加藤登紀子両氏の対談、プロデューサー、その他批評家などなど、様々な方々が様々な角度で紅の豚を楽しんでいます。

一方で、人間と戦争の切っても切れないことについて、考えさせられる本でもあります。豊かな日本に生まれたボクたちに。

目次

豚(ポルコ)がのこしてくれた魔法(ナビゲーター・万城目学)
Part1 映画『紅の豚』誕生
スタジオジブリ物語『紅の豚』と新スタジオ建設
鈴木敏夫「女性が作る飛行機の映画」宮崎駿の驚くべき決断
Part2『紅の豚』の制作現場
[監督]宮崎駿「『紅の豚』は自分への現在形の手紙だった。」
宮崎駿監督による演出覚え書き
女性スタッフ7人座談会 今だから話したい『紅の豚』のこと
ART of Porco Rosso
宣材コレクション
加藤登紀子×宮崎駿 もう一度、時には昔の話を
エンディング・イラスト選ー飛行機 黎明期
Part3 作品の背景を読み解く
佐藤多佳子 アドリア海の光と影
イタロ・カプローニ 祖父ジャンニ・カプローニが生きた『紅の豚』の時代
村上龍 現実を「なぞらない」宮崎駿 『紅の豚』によせて
稲垣直樹 サン=テグジュペリから読み解く『紅の豚』
青沼陽一郎 『紅の豚』とその時代ー「変身譚」の系譜
佐藤和歌子 トリプル・ラブは名画の香り?!
大塚英志 『紅の豚』解題
出典一覧
宮崎駿プロフィール
映画クレジット

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